ヘッドの「アジマス」とは

カセットテープオープンリールテープ(オープンテープ)を録音再生する時に付き物なのが「アジマス」という問題でした。
アジマスとは、テープの走行方向に平行に音を録音していく時に、磁気を記録するために「ヘッド」という部品を使うのですが、このヘッドがテープにあたる部分にはギャップがあり、このギャップに磁界を生じることによってテープに塗られた磁性体に音から変換された電気信号を磁気の変化として記録するものでした。
そして再生の時にはこれを逆に、テープに記録されている磁気信号をヘッドで読み取って電気信号に変換し、アンプで増幅する事によって、最終的にはスピーカーから「音」として出力される事になります。


ところで、この録音→再生の過程において、録音した時のヘッドのギャップの角度と再生する時のヘッドのギャップは完全に平行であることが望ましいとされています。
それはなぜかというと平行する2本のトラックの間において、ほんの僅かの時間差が生じてしまい、ステレオの左右の音の間に「位相差」というものが生じてしまうというのが、一つの問題です。(他にも、高域の再現に問題が生じる、などあります)
しかし、発掘された音源テープは、そもそも録音されたデッキは存在せず、考古研にあるデッキで再生されることになりますので、ほぼ確実に正しいアジマスではないですよね。

そこで、秘密兵器の登場です。
今や世の中はデジタル時代。
手持ちのデジタルミキサーやDAW(デジタルオーディオワークステーション)の登場です。

デジタルコンソールのパラメータで「DELAY(ディレイ)」があります。
これは、入ってきた音に対して一定のわずかな時間をずらして出力するというものです。
例えば、サンプリング周波数44.1khzのデジタル化の場合に、右の写真のように 4sample 遅らせるということは、
4万4千4百分の4秒(約分すれば1万1千025秒)音を遅らせるという事です。

先ほどの画像を思い出してください。
2つのトラックが通るヘッドのギャップの位置が、直角に比べると多少のズレがありますよね。
この赤と青の2本の線の分だけ、出てくる左右の音に時間差があるわけです。
それを、「早く出てくる音」の方を上の sample 時間分ずらせば、もとに戻せるというわけです。

写真右のオシロスコープの画像を見てください。
まっすぐな直線ではなくちょっと楕円形のような図形になっています。
これがアジマスのズレによって生じているというわけです。

それで、先ほどのようにデジタル卓の「sample」を片方だけ遅らせる事によって、LとRの位相が合うという訳です。
(アナログ卓の場合も「ディレイ」というエフェクト機材を使うことによって同様なことができます)
左の写真を見てください。
ほぼ一直線の線が見えています。
その下のPHASE(フェイズ)も右一杯になっていますね。
このように正しく合わせる事によって、左右の位相が正しい音源を取ることができます。
(ステレオスピーカーやヘッドホンで聞いたときに、定位がボケずにちゃんと中央にあるという状態です)

こうして取り込んだ音のファイルを整形し、Web上に置いた場合に聞きやすいように調整して、番組別にWAVという音源ファイル形式で保存しています。
この考古研のサイトに紹介する場合は、このWAVファイルをネット上で一般的なmp3というファイル形式に圧縮して紹介しています。